東日本大震災被災地を訪ねて

福島県 大熊町

【概要】

視察を行ったのは下記の通り。

 ・震災9年半後(2020年8月下旬)

・震災10年後(2021年4月下旬)

・震災10年後2回目(2021年9月上旬)

 

大熊町は、北は福島第一原子力発電所で双葉町と接し、南は富岡町と接している。沿岸部は全体に断崖が続き、南部の熊川流域に農地が広がる。津波高は不明であるが熊川流域で津波高は海抜10m、その他の断崖では福島第一原子力発電所の防潮堤で上がった50m近い水しぶきから考えて、遡上高は30m近いと思われる。大熊町全体の死者(直接死)・行方不明者は11名で、熊川流域の方々と予想される。なお、原発事故での避難において多くの犠牲者を出した双葉病院(書籍に「なぜ院長は『逃亡犯』にされたのか」がある)および関連の介護施設は大熊町にある。

なお、2021年5月時点の人口は約1万人、その内、町内居住者は約300人、住民登録のない方(作業者など)を含めると約900人とのことである。

 

【視察報告】

2019年4月30日

 双葉町と同様に、震災後、長い間、立入禁止のため視察は行えなかった。

2020年8月23日

 震災9年半後(2020年8月下旬)は富岡町から宿泊場所の南相馬に移動し、翌朝に南下して大熊町に入った。大熊町では大川原地区に町役場が完成(2019年5月)、周囲に住宅が整備され始めていて、2020年4月には介護施設「おおくまもみのき苑」も開設された(元は福島第一原発に最も近かった介護施設「サンライト大熊」)。しかし、生活に必要な医療施設、小中学校などはなく、商店も町役場近くの小さな仮設店舗のみである。JR大野駅が再開したが、駅周辺も歩くことはできず、駅と大川原地区の間の一本道を車で移動できるだけで、双葉病院等の視察はできない。続いては双葉町に向かった。

2021年5月3日

 震災10年後(2021年4月下旬~5月上旬)は双葉町から大野駅東口に向かった。東口駅前には何もない。西口に廻ると、駅前に線量計の貸し出しがあり、駅からは循環バスもあって1日に6便、大川原の町役場に行くことができる(その内、3便は富岡町の病院や商業施設「さくらモール」、富岡駅にも行く)。ただし、決められた道路以外はバリケードで封鎖され立ち入ることはできない。大熊町役場の近くには、生活に必要な店舗街ができており、交流施設+温浴施設も建設が進んでいる。近くにも公営住宅の建設が進んではいるが、町内居住人口から考えて、ビジネスとして成り立つかは疑問である。

2021年9月6日

 震災10年後の2回目(2021年9月上旬)は立ち入りができる大川原の町役場付近の生活環境を視察した。町役場付近では9つの商店・食堂・美容室が入る商業施設「おおくまポート」が稼働しているが、訪問者は極めて少ない。隣接して宿泊温泉施設や地域交流施設も完成間近である。ここには災害公営住宅も整備されているが入居状況は不明で、地域内に介護施設もあるが小中学校や医療機関はない。大野駅に向かう途中には「廃炉環境国際共同センター」が稼働している。大野駅付近の農地はきちんと管理されているが、耕作されているかどうかは不明である。

【大熊町】

津波

浸水高

熊川河口部で約10m

遡上高

断崖部で約30m

死者(関連死)行方不明者(2021年3月)

141人(関連死128)

人口推移

2010年

11,405人

2020年

10,271人

増減率

-10%

主要地域

福島第一原発付近、中心部、熊川流域、大川原地区

 

〇被害状況と復旧状況

  ・全体

    ・津波が浸水した範囲は熊川河口付近の幅1kmほどである。

    ・居住者/住民登録=250/10,288≒2.4%(2020年8月現在)

なお町民以外を含めた居住者は854人。

    ・福島第1原発に最も近い介護施設・サンライト大熊(社会福祉法人・

もみのき会)は、震災直後にデンソー福島工場に一時身を寄せた後に会津

]若松に避難。現在は休止中だがグループホームを大川原に立ち上げた。

    ・死者のほとんどは関連死で、双葉病院関係者で50名。

  ・福島第一原発付近

・中間貯蔵施設の工事が進む(住民は戻れない)。

・国道6号の三角屋交差点に「中間貯蔵工事情報センター」があり、工事の

趣旨や工事状況を説明している。

  ・中心部

    ・大野駅と大川原の新・町役場までの道路のみ通行できる。

    ・県立大野病院は休止中。

・原発事故からの避難(救出)が遅れたために50人が亡くなった双葉病院

グループは大熊町にあり、大野駅の南1kmにあるが、近づくことはでき

ない。

    ・大野駅付近の農地で耕作が行われているようである。

  ・熊川流域

    ・国道6号以外は通れない。

 ・大川原

   ・町役場と災害公営住宅、単身寮などがある。当然だが子供たちは一人も

いない。

   ・商業施設「おおくまポート」はコンビニやクリーニング、レストラン

など数店舗が営業を開始している。

   ・宿泊温泉施設「ほっと大熊」が営業開始。

   ・交流施設「linkる大熊」も稼働開始。

  ・グループホーム・もみのき(社会福祉法人・もみのき会が運営)も稼働

しているが、小中学校、保育園、医療施設は無い。

    ・JR大野駅~大川原~JR富岡駅のバスがあり、富岡の郵便局、医療施設、

さくらモール(商業施設)へ行くことができる。

・常磐自動車道の東側~JR常磐線の間に、原発解体や中間貯蔵施設関連の

企業が進出している

 

〇10年間の視察結果と感想

  ・復旧を目指しているように見えるが・・現在の居住者の大半は原発関係者。

  ・子供たちの姿は見られない。

  ・廃炉工事の期間、中間貯蔵施設がある間は、子供たちは帰還しない。